詩4 ふるさと

ふるさと


 メソッドはもうたくさん
 あなたはご存知でしょう?
 たまものに還るすゞしい音や
 ほがらかな径 [こみち] を
 ふるさとにいるのは誰?
 あなたの華やぎをいつも
 祈っているのは?
 まっすぐ前を見てごらん
 そして焼きたてのパンのように
 あたたかく香ばしい言葉を言ってごらん
 さみしさが炙りだしたものへ
 何度でも辿り着けるように
 「愛」と
 「愛している」と

 

詩3 エルピス

エルピス


 夕立
 繁華街の珈琲屋のひさしに駆け込んできた
 女学生は荒い息のまま
 瑠璃色のかばんから携帯をとりだす
 とそれは蛍のように灯って
 思春期のおそらく十七光年を経て辿りついた星の言葉を
 余念なく捺してゆく
 (ここにあらずの心の
  謳 [うた] に類した捜索願い)

 

  虹
 そして小降りになるやいなや
 匂い立つアスファルトの上を
 月面でする跳ぶような足どりで往った
 ふたつの笑くぼと乳房とたずさえて
 (愛 [リーベ] と名づけた品種を採りに
  雀躍と)

  

詩2 接吻

 接吻


  甘味な窒息―――

  ダチュラの花の下で
  心は取り返せないほど浚われた
  (ぼくらの唇は青変したという)

  以来多くの言葉を費やして寂しさを凌ぎながら手を携え
  臈たけた花の中をすすんでいると信じた

  そうではなく疑うことを自らに禁じて
  ぼくらは慎み深く眠りあったのだ
  行き場のないやさしさを少しく持て余しながら

  (ぼくの何かが終わり あなたの何かが始った
   訃のように遠いポワン) 

 

詩1 決起

決起


  雨上がりの朝
  前方にまっすぐ光る線路は軌跡ではない

  凝然とそれをみる俺は
  すでに深呼吸をはじめている 

  わかるか 

  時間を汚さないことの
  古傷に音をあげないことの
  刃のように正直であることの 

  今日へ捺す みずみずしい俺の決起だ